夢見たものは
荷物を昨日のうちに送ったので、次の日は家を掃除することになった。
「お母さんは台所や、リビングとか、そうね、主に1階をするから、陽菜は2階をよろしくね。」
「分った。」
私はバケツと雑巾を持って2階へ上がった。
私の部屋にはほとんど何も残ってなかった。
小物が好きなのでごちゃごちゃしていた部屋だが、いらないものは捨て、最小限はおばあちゃんの家へ送った。
私は床を主に窓の周りなどの拭き掃除を始めた。
つい一週間前の私には決して想像出来なかったことだ。
この家から出ていくのだから。
そしてこの家は空っぽになる。
自分の部屋の大体の掃除を終えた私は、杏奈の部屋に移動した。
杏奈の部屋の机の下を拭いていると、懐かしいものを見つけた。
おもちゃの指輪だった。
小さい頃、なにかの景品で貰ったおもちゃの指輪だが、どうしても杏奈が欲しがるために渋々譲ったものだった。
「こんなところに・・・、大事にしてって言ったのに。」
私はそのおもちゃの指輪をポケットに入れ、掃除を続けた。
「陽菜ー、終わった?」
「うん。」
「じゃあ、行こうか。」
私たちは家に鍵を閉め、今日泊まるためのホテルへ向かった。
もう、戻ることはないのだろうか・・・
私は家を何度か振り向いたが、お母さんが振り向くことはなかった。