夢見たものは


「今日をもって転校することになりました。短い間でしたが、今までありがとうございました。」



私はなるべく皆の顔を見ずに後ろの掲示板を見ながら話した。
残念ながら人前に立つのが苦手なので、どうしても不自然な状態になった。



「携帯電話も解約しちゃったので、もうほとんど連絡は取れないですが、皆さんのことは忘れません。新しい高校で頑張りたいと思います。」



転校のあいさつの例文のような決まり文句を一通りしゃべった後、怜奈の顔を見た。


怜奈は、ビックリしたように目を開いて、じっと私を見据えていた。

私は少したじろいで、身動きが出来ない錯覚に囚われたが、これで最後なんだと踏ん張り、怜奈を見てニッを笑って見せた。



実は、携帯電話は特に必要と感じたこともなかったしお金がかかるので、解約してしまった。

だから怜奈を含め、この学校の人とはもう二度と関わることはないのだ。

クラスは悲しい雰囲気になっていたが、今の私の心より悲しいことなんてないだろう。
すぐに私のことなんか忘れて、この人たちはいつものように日々を過ごしていくのだろう。


なんだか、私だけとっても惨めに思えて、不覚にも自分が可哀想に思えて、悲しくなってしまった。

このままだと皆の前で泣いてしまいそうだったので、私は最後に先生に軽く挨拶し教室を出て、そのまままっしぐらに靴箱に向かった。








黙々と歩いていたが、校門を出るときに一度だけ学校を振りかえった。


「さよなら。」




短かったが、友達もできて、好きな人もできた。
その事実だけで満足でないか。

そう自分に言い聞かせて校門をくぐった。




涙が少しだけこぼれた。





私はそれを拭いて、お母さんと待ち合わせている駅へ急いだ。
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