夢みる蝶は遊飛する
チャイムが鳴ってから数分後、あまり趣味がいいとは言えないシャツを着た小太りの中年男性が、タオルで汗を拭いながら入ってきた。

数Ⅱ担当の鈴木先生。

頭が見事なバーコード模様であることから、生徒の間ではバーコード鈴木と呼ばれていることを、沙世がこっそり耳打ちしてくれた。

嫌な教師ではないけれど、若干嫌味っぽいし、目をつけられたら当てられ続けるから気をつけて、と。


・・・それなのに。


どうして私は今、黒板の前でチョークを握りしめているのだろう。

転校生の歓迎のしるしに難問をプレゼントだなんて、よく言えたものだ。

どうせ都合が良かったからに決まっている。



私が解くのは、かの有名な私立W大の三年前の入試問題。

問題に目を通すと、数学があまり得意とは言えない私でも、なんとか解けそうなものだった。

無駄に偏差値の高い学校に通っていたお陰で、転校早々恥をかかなくて済みそうだ。


少し悩みながらも、どうにか納得のいく解答を作ることができた。

けれど、この解答を見て先生がなんと言うかはわからない。

ここで私が醜態を晒せば、今後の学校生活がどうなるか。

きっと先生は承知しているだろう。

というより、していてくれないと困る。


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