夢みる蝶は遊飛する
目を閉じて、ここ最近の私と桜井くんのやりとりを思い出した。
頭の回転が速い人間はこれだから嫌だ。
どうすれば流れが自分の都合の良いようにいくのかを知っているから。
「ああ、そういうことね・・・」
たしかに私は、明確に、女子バスケ部に入るとは言っていなかったかもしれない。
勝負についても、桜井くんが“バスケ部の”マネージャーになる、と言っていたことになんの違和感も覚えていなかった。
桜井くんは、きっとはじめからこのつもりだったのだ。
だからあんなに熱心に私を勧誘し、勝負を挑んできた。
大きなため息でもつきたいところだけれど、期待を込めた瞳で私を見ている男子バスケ部の部員たちの前では失礼だということくらいわかっている。
あの人だって、マネさんっていい響きだよな、なんて嬉しそうにしている人たちに、嫌そうな顔は見せるのははばかられた。
「い、いたっ! ちょ、舞、ハゲるっ! いだだだっ!」
「うっさいバカ! あんたいっつもいっつも何でそうなわけ!? なんであたしを邪魔するの!? どうするの、これで亜美が気分を害して、やっぱり嫌だって言い出したら。
いい? あんたは敗者、亜美は勝者なの」
舞は桜井くんの髪をわしづかみながら怒鳴っている。
般若のようなその顔に、先ほどまでの幸せそうな笑みは見当たらない。