夢みる蝶は遊飛する
唖然とした表情の部員たちが、この状況を飲み込めないでいるのは明らかだ。
男子の一年生とおぼしき集団は、自分たちのキャプテンが目に涙を浮かべながら許しを請いている情けない姿から目を背けている。
須賀くんは、なんとか舞の手を桜井くんの頭から引き離そうとして、舞に手の甲を引っかかれていた。
すがるような多くの瞳が、私に向けられている。
今くらいは、ため息をついてもいいだろう。
そして私は口を開いた。
「・・・・わかった、男女両方のマネージャーになるから、落ち着いて。痛そうだから舞は髪の毛を離してあげて、桜井くんは黙っててね」
これ以外に、事態を収拾する術を思いつかなかった。
「やったー!」
桜井くんが私の言葉を無視して声を上げたので、一睨みして黙らせる。
「ただし、基本は女子を優先するからね。男子に関しては、ドリンクの用意や手当て程度の簡単なことしかしません」
「えぇー、冷た・・・うぐっ」
語尾が変だと思ったら、舞が強烈な一撃を桜井くんの鳩尾に捩じ込んだようだ。
握り拳が桜井くんの腹部にめり込んでいるのを、私はしっかりとこの目で見てしまった。
「なにあんた、文句あるわけ? あんたが訳のわかんない我が儘言って、無理矢理マネやってもらうんだから感謝しなさい」
舞は怒ると人が変わるらしい。
なるべく感情を高ぶらせないようにしようと心に誓った。