夢みる蝶は遊飛する
鼻がねじ曲がるような、ひどい汗の臭い。
いや、汗だけではない。
なにかが発酵していそうな、腐っていそうな、そんな臭いが鼻につく。
「ちょっ・・・、くっさ! 窓、窓開けよう!」
舞が叫ぶ。
錆びついた鍵をなんとかこじ開け、窓枠と桟が擦れる甲高い音も気にせず、舞は窓に飛びついて新鮮な空気を吸おうとしていた。
桜井くんと須賀くんは慣れているのか、この悪臭を気にする様子もない。
いや、感じてはいるのだろうけれど、たぶん鼻が麻痺してしまっているのだろう。
あまりに嫌がると失礼だから、私は少し眉をひそめる程度にとどめておいた。
「ちょっと散らかってるけど気にしないで」
悠長に笑っている桜井くんが信じられない。
この臭いには、生命の危機すら感じる。
「ちょっとっていうレベルかな・・・」
散乱したTシャツやタオル、制汗スプレーの缶、ペットボトル、なぜか漫画も積まれている。
「掃除・・・しよう」
私の言葉に、須賀くんはカッターシャツの袖をまくりあげた。