夢みる蝶は遊飛する
「私立の、皇ヶ丘(かみがおか)学園っていうところ。知ってる?」
私の言葉を受けて彼は、右手で器用にシャープペンシルを操りながら、なにか考えるような仕草をしていた。
それを見て、まさかという思いが頭の中を駆け巡り、すでに私は後悔し始めていた。
封じ込めた記憶が、断片的によみがえってくる。
私が犯した大きな過ち。
まさか、そんなに重大だとは思っていなくて。
見過ごしてまった、隠そうとした。
それが、すべてを壊して。
残ったものは。
罵声、怒声、激痛、涙。
そして。
鮮やかに駆け抜ける、真紅の残像。
もしかすると、彼は本当に知っているのかもしれない。
当時の中学バスケ界最強と称された“紅の魔女”を。