夢みる蝶は遊飛する
偽りと傷
私の心配をよそに、彼は私に眩しいくらいの笑顔を向けてきた。
「皇ヶ丘学園って、めっちゃ頭いいところじゃん! すっげぇ!」
「おー、須賀、いい度胸じゃないか。俺の解説よりも転校生との会話を楽しむとは」
授業中だというのに彼が大きな声ではしゃいだため、鈴木先生が解説を中断して私たちに注意をした。
何人かがこちらを振り向いていたため、私は慌てて真面目に授業を聴く態勢をとった。
須賀くんは慣れているのか悪びれた様子もなく、軽く頷きながらノートに数式を書き込み始めていた。
私は頬杖をつきながら、クーラーすら無い蒸し暑い教室での授業を耳に流し込むことにした。
所詮、そんなものなのか。
有名だと思っていたのは、誰もが知っていると思っていたのは、自分だけ。
井の中の蛙、だろうか。
それならそれでいい。
こんな中途半端な田舎で、私の過去が知られたからといって、どうということはない。
期待などしていない学校生活。
ひびの入った古びた校舎で、壁をも通り抜けるような羨望の眼差しを受けたとしても、私の傷は癒えない。
都会のように擦れていない、素直な感情を向けられたところで、偽りでできた私の鎧は、壊れたりはしない。
残暑の厳しい九月の陽光が、カーテン越しに私に降り注いでいた。