夢みる蝶は遊飛する

「お疲れ、亜美」


体育館から細く漏れてくる光だけでボトルや雑巾を洗っていた私は、いつの間にか近くにいた舞に気づいていなかった。


「お疲れさま」

「今日、ほんと助かった。一年生たちも、練習だけに集中できるようになったし」

「そう。よかった」


ほとんど真っ暗で、お互いの表情はほとんど見えないけれど、舞は穏やかに微笑んでいる気がした。

数秒の沈黙ののち、舞がぽつりとつぶやいた。


「亜美、ありがとね」


その言葉だけで、救われる気がした。


「あと、日曜日、忘れないでね」

「舞もね」


この時、周りが暗闇ではなくて、そして私が手元の雑巾ではなく舞の顔を見ていたら。

舞がなにかを企んでいることが、すぐにわかったはずなのに。



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