夢みる蝶は遊飛する

結局買うことを決めたのは、三種類の中で最も安く、伸縮性の悪いものだった。

須賀くんはしきりに高級な商品を恨めしそうに眺めていたけれど、仕方がない。

公立高校の部費などたかが知れている。

今はたくさん余っていても、贅沢をすればすぐになくなってしまうのだ。

かつては雑巾でさえも、縫わずに買ってきていた皇ヶ丘学園のことを考え、複雑な気持ちになった。


「アンダーラップは何個買う? そんなに消費の激しいものじゃないよね」


アンダーラップとは、薄いスポンジのようなもので、テーピングの下に巻くものである。

テープで皮膚がかぶれないように保護するために。

私も以前、うっかりアンダーラップを巻かずにテーピングをしたときは、テープが貼ってあったとおりに赤くかぶれてしまったことがあった。

あれは汗をかいたまま何時間もテープを貼ったままだったことにも問題はあったけれど。


ゴムの匂いの染みついた店内の、狭い通路で頭を寄せ合って相談する。

高い棚に遮られてあまり照明が届かないここは、周りの喧騒がなければ自分たち二人しかいないようにさえ感じた。


結局、アンダーラップは男女それぞれ5巻ずつ買うことにした。

多めに買っておけば、あとでまた買い足しに来る必要がないからだ。

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