夢みる蝶は遊飛する
「当然なの?」
私の視線は、コートのむこうだ。
踏み出すときにトラベリングをしがちな須賀くんの足元を見ていた。
審判である体育教師はそこまで見ていないけれど、私は遠くからでも、須賀くんがトラベリングをしたのがはっきり見えた。
また、部活のときに言わなければ。
「あたしが言うことじゃないから、亜美には教えないけど。
まあ、とりあえずあんたはもう少し経験値を増やした方がいいわね」
「なんの経験値?」
「れ・ん・あ・い」
沙世は一文字ずつ区切ってそう言い、悪戯っぽく笑った。
沙世が前にこの顔をしたのは、マネージャーになるならないで桜井くんに宣戦布告をされた日だった。
常に面白いものを探している、と言った沙世は、ちょうど今と同じ表情をしていた。
「べつに、そんな経験積まなくてもいいでしょ? それに話がずれてる。今、そんな話してなかったじゃない」
「これが関係あるのよね。
亜美、付き合ったことは?」
「ない、けど・・・」
ほらやっぱり経験値ゼロ、と沙世は勝ち誇ったように笑った。