夢みる蝶は遊飛する
だとしたら、一体誰が?
他に、私が電話番号を教えた相手は、いなかっただろうか。
この電子機器が、想いをつなげてくれることを願って、教えた相手は。
考えないようにしていたけれど、ひとりだけ、いる。
決してかかってくることなどないと思いながらも、少しでも望みをかけて。
でも、まさか、そんな。
“彼”から私に電話がかかってくることなど、ありえないのだ。
けれど、もうそれしか可能性は残っていない。
私はどんな仕打ちを受けても“彼”を憎み、恨むことはできない。
そう、むしろ、もし電話のむこうの相手が“彼”だったなら、私は・・・・・。
でも、ありえないのだ。
私に失望し、絶望し、私の前から姿を消した“彼”が、今さら私とのつながりを求めるなどということは、ありえない。
複雑、という単語だけでは表せないようないろいろな感情が、私の中で渦巻いていた。
それらが綺麗に混ざり合うことは決してなく、ただただもどかしい不快感だけを私に与えつづける。
胸をかきむしりたくなるような、狂おしい激情が、私の中にこごっている。
“彼”と過ごした日々は、決して色褪せない思い出として心に残っている。
たった9年足らずの、あまりに短かった幸福。
それを回想している今、この瞬間も、残酷な運命と失われた哀しい愛が、私に忍び寄っていたことに。
私はまだ、気づいていなかった。