夢みる蝶は遊飛する
「誰が好んであんたの部屋なんか行くか、バカ。あたしが行かなくても、あんたがあたしの部屋に毎日のように来るくせに」
沙世が涙目で、生物の資料集に載っているキイロショウジョウバエの写真を黒で塗りつぶした。
「沙世ちゃんレーダーがピコピコ反応するんだってー。あ、呼んでるなーって」
「呼んでないしバーカバカバカ。
っていうか、たまにちゃん付けするのやめてよ。それからレーダーとか言ってるのもキモい」
今度はエンドウを使って交雑実験をした、かの有名なメンデルの写真に髭や髪などを書き足している。
「沙世、教えるから。どこがわからないの?」
完成したメンデルの顔の悲惨さに見かねて、落書きをする沙世の手をやんわりと制止した。
「ぜんぶ! 全部わかんない」
沙世は投げやりになっている。
「でもちょっと待って。亜美に教えてもらうなら、数学にする。生物は解説見ればなんとなくわかるから」
そう言ってごそごそと数学のプリントを取り出した。
沙世の左に座っている私は、それを覗き込んだ。