夢みる蝶は遊飛する

「あれ、亜美、左利き!?」


沙世が目を瞠っている。

私は今、左手で筆記具を持って書いているのだ。


「両利き。もともと左利きだったんだけど、右に矯正したの」

「え、じゃあバスケに有利じゃん!」


そう言ったのは、もちろん須賀くんだ。


「どうして」


沙世が、自分も左手で文字を書けるかとペンを取り出したけれど、うまく持つことができずに、少しふくれている。


「ほら、俺右利きだから、左のドリブル苦手なんだ。でも両利きってことは、そういうこともないし。
うらやましー・・・」


確かに、私はどちらのドリブルも苦手としていないし、シュートもまた然り。

左右の力の違いによっては、フリースローや3ポイントシュートなど、中・長距離のシュートが曲がってしまうことがあるのだ。


「でも、私が右利きに直したの、小学校に上がってからだったから、大変だったんだよ。スプーンやフォークですらうまく使えないの。お箸なんてもっての他」


母は行儀に厳しかったから、右手でうまく箸が使えない私は苦労した。

けれど、きちんとできたときに褒めてもらうことが嬉しくて仕方なかった私は、その叱責をストレスに感じることなく、右利きへ矯正できたのだ。

それももう、懐かしい思い出。

< 185 / 681 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop