夢みる蝶は遊飛する
「せんぱーい、亜美ちゃん先輩っ!」
部活が始まる前に準備をしていたら、後輩に呼ばれた。
私がいつかの部活でフリースローを指導した、奈々である。
「どうしたの?」
部活に必要なものを抱えて立ち上がった私に駆け寄り、奈々はビブスの入ったナイロンの袋を私の腕の中から抜き取りながら嬉しそうに笑った。
「あたし、昨日のシューティングで、10本中6本もフリースロー入ったんですっ」
褒めてほしいと、その顔にはっきりと書いてある。
ちぎれんばかりに尻尾を振る仔犬のようで、見ていてこちらも笑顔になってしまう。
奈々をはじめとするバスケ部の部員たちは、まだ入部して日も浅い私を自然に受け入れてくれている。
「先輩のおかげです。あたし、最近部活が楽しくてしょうがないんです」
奈々の言葉に、私の存在する意味があるのだとたしかに感じられて、気分が高揚する。
奈々のように、このチームのメンバーは一様に上達している。
舞には私のおかげだと言われるけれど、それは違う。
私は部員たちがプレイだけに集中できる環境を作っているだけ。
その“プレイに集中できる”という恵まれた環境をどう有効に活用していくかは、プレイヤー自身の問題だ。
向上心がなければ、人は成長できない。