夢みる蝶は遊飛する
夕食の席で、祖母は私に学校のことをたくさん訊いてきた。


私が話している最中も、祖父は黙ったまま、もくもくと咀嚼、嚥下を繰り返している。

祖母とは割によく話すようになったけれど、まだ祖父とはあまり会話をしていない。

私には申し訳なさや負い目があるから、拒絶されているのかと思うと自分からは怖くて話しかけることが出来ないのだ。


そのうちに、祖父が食事を終えて立ち上がった。


そして。


「勉強、頑張るんだぞ」


と一言、低い声で告げてから、部屋を出て行った。



私が目を瞬いていると、祖母がくすくすと笑っていた。


「お父さんね、なんだか気恥かしいのよ。頑固で寡黙な人だから誤解されやすいけど。亜美ちゃんと一緒に暮らせるの、喜んでるのよ、あれで」


何となく、私と祖父の間にあったわだかまりが、少し小さくなったように感じた。



血は繋がっているけれど、家族になりきれていない私たち。

心の距離が、ほんの小さな一歩分だけ、縮まったのかもしれない。




“家族”のいない私。

いつでもどこにでも飛んでいける私だけれど、新しい“家族”ができるのならば、それが私を地に繋ぎとめてくれるかもしれない。



母のもとへ行きたい。

もう一度会って、ただひたすらに懺悔したい。

そう考えている私は、母に会うためならこの命をもあっさりと投げ出してしまうだろう。

何気ない日常の中に、私が惹きつけられるなにかが無い限り。



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