夢みる蝶は遊飛する
男子はお互いに意見を正直に言いすぎて喧嘩になることがある。
けれどそれも、自分と相手のことを思うからこそのことだ。
強くなりたい、上手になりたい。
その気持ちが無いならば、誰も相手に意見したりはしない。
クラブハウス棟を出て体育館に着くと、奈々は急いで荷物を置いて、ボールを取りに行った。
小柄な奈々の、子どものように小さな手で持つと、バスケットボールが大きく見える。
まるで宝物のようにボールを抱きしめるその姿が、かつての自分の姿と重なった。
すべての準備を終えて、不備がないかと体育館内を見渡す。
男子が使用するコートのワックスが、残りわずかだということに気がついた。
垂れたワックスで汚れているその容器を手に取ろうとしたとき、声をかけられた。
「ごめん、テーピングしてもらってもいい?」
男子の2年生部員が、片足だけバスケットシューズを履いた状態で立っていた。
この部員は以前軽い捻挫をし、それから捻挫をする癖がついてしまっているのだ。
これ以上捻挫をすることのないよう、足首にテーピングを施すのは私の役割だ。
もちろん、と頷き、救急箱を持ってくる。