夢みる蝶は遊飛する
テーピングや応急処置をする回数は、女子より圧倒的に男子が多い。
激しく接触したことによる打撲は日常茶飯事。
突き指も捻挫も多い上に、つい先日は鼻骨を骨折した部員までいた。
鼻からの出血が止まらずに、徐々に顔が青ざめていく部員を見て、肝を冷やしたことが記憶に新しい。
はじめの頃は、足首のテーピングなどをする際、女子との足の大きさの違いに戸惑っていたけれど、今では随分慣れた。
男子の足首や腿の太さを間近で見ると、私は華奢な方ではないけれど、やはり女なのだと実感する。
「はい、できたよ」
足首の動きを妨げないために少し緩めに巻いたテープの上から、最後に伸縮性のあるテープを8の字に巻いて、完成。
足を動かして具合を確かめていた部員がお礼とともに浮かべた笑顔を見て、自分の存在意義をたしかに感じることができた。
こうして私は、いちいち自分がいることによるメリットを見つけていかないと、途端に激しい無力感に襲われるのだ。
罪責念慮をともなうほどの。
いつになったら解放されるのだろう。
暗い顔を部員たちに見られないように、私はワックスの容器を持って逃げるように倉庫に駆け込んだ。
そしてワックスを移し替える作業を終え、汚れた手を洗うと、水の冷たさでやっと我に返った。