夢みる蝶は遊飛する
「寒い・・・」
片付けを終えて部室を出ると、当たり前だけれど辺りは暗闇に包まれていた。
職員室と体育館前の通路に灯った僅かな明かりしかない。
歩きはじめると、むき出しの顔や脚を冷たい風が撫でた。
「お疲れさま」
突然後ろからかけられた声に、驚いて振り向いた。
蛍光灯の白い光に照らされて、その姿が浮かび上がっている。
「・・・須賀くん? どうしたの、もう遅いのに」
普段、彼はこんな時間まで残っていない。
彼に限らず、部員たちが私より遅くまで学校にいたことがないのだ。
「や、俺は部室に忘れ物したから途中で引き返してきたんだけど。
え、高橋さんっていつもこんなに遅いんだ?」
「うん。片づけをしてると、どうしてもこの時間になるから」
ドリンクのボトルや使用済みのビブス、雑巾を洗い、モップとボールを倉庫に、救急箱やその他の備品を整頓して片づけていると、部員たちと同じ時間に帰宅するのは難しい。
祖父母は私の帰りが遅いことを心配しているけれど、皇ヶ丘でマネージャーをやっていた頃は、もっと遅い時間に学校を出ていたのだ。
祖父母と同じように、しきりに心配する彼に、大丈夫だと笑顔を見せた。