夢みる蝶は遊飛する
家が通り二つ分しか離れていない私たちは、もちろん帰る方向は同じである。
必然的に肩を並べて歩くことになる。
街灯の少ないこの辺りでは、私たちの姿は闇にまぎれて見えないだろう。
「そういえば高橋さん、“紫紺(しこん)の魔術師”って知ってる?」
マフラーに顔をうずめ、ミトンの手袋に包まれた手を開いたり握ったりして温めていた私は顔を上げた。
「紫紺の魔術師? もちろん。先輩たちだから」
――紫紺の魔術師
それは今から25年ほど前の、皇ヶ丘学園高等部の男子バスケ部の愛称である。
“紫紺”というのはユニフォームの色から、“魔術師”というのはそのプレイの巧みさから名付けられた。
とにかく魔法のように華麗なプレイで観客を魅了し、敵を翻弄したチームだったらしい。
私たちの“紅の魔女”という愛称は、“紫紺の魔術師”に合わせて付けられたものである。
私が皇ヶ丘学園に在籍していて、なおかつ“紅の魔女”の一員だったと知る数少ない人間のうちの一人である須賀くんは、こうして私によくバスケの話をふる。