夢みる蝶は遊飛する
「隼人がさ、俺たちの目標とするのは“紫紺の魔術師”だって言ってたから」
当時の試合を映した画質の悪いビデオを、桜井くんはどこからか入手して大切にしているらしい。
私の印象としては、桜井くんのプレイスタイルはあまり“紫紺の魔術師”には当てはまらない。
豪快でダイナミックなプレイをする彼よりも、しなやかで柔軟性のある須賀くんのプレイの方が、それらしい。
私も、もちろん“紫紺の魔術師”には大きな憧れを抱いていた。
プレイヤーだった頃はガードのポジションを任されていた私も、その完璧なパスワークに魅せられた一人なのだ。
“紫紺の魔術師”で5番のユニフォームを着ていたあのガードほど美しく的確なボールさばきをするプレイヤーを、私は他に知らない。
「やっぱり今でも皇ヶ丘だと男子は“紫紺の魔術師”に続けっていう感じ?」
「そうだね。先輩たちに追いつけ追い越せ、今年こそは歴史を塗り替えるんだ、って」
須賀くんとするバスケの話は、いつだって私の心を温かくしてくれる。
知識が豊富な彼は、私がまだ知らないこともたくさん知っている。
決してその知識を、ひけらかすのではなく共有しようとするその姿勢。
それが、傷だらけの私の心にじんわりと染み込んでくるのだと思う。