夢みる蝶は遊飛する
「大丈夫だよ、高橋さんなら」
不思議とその顔は、暗い夜道でもはっきりと見えた。
柔らかな笑みとともに、その瞳に浮かんだ優しさまで、私は感じ取ることができた。
たった、一言。
たった一言なのに、彼のその言葉は、私の心を押しつぶしている重石を、軽くしてくれた。
ほんの少し軽くなっただけなのに、私の呼吸は楽になった。
こんな悲しい世界で、息苦しくてもがいていた自分の姿が、ぼんやりと遠ざかっていくような気さえした。
「高橋さんがどれだけ尽くしてくれてて、頑張ってくれてるかっていうのは、俺たちが一番よくわかってるし。
だから絶対、伝わるよ」
彼は私の欲しい言葉を、難なく言ってのけた。
自分を褒めてあげることのできない私を、称える言葉をくれた。
あれほど感じていた寒さは、もう気にならなかった。
この心が今感じとっているのは―――・・・
「・・・ありがとう」
冷えた空気にのせて、感謝の言葉を口にした。
見上げた夜空は、高く遠くて。
美しい、紫紺の色をしていた。