夢みる蝶は遊飛する
深呼吸をしてから通話ボタンを押した私の耳に、女性の声が流れ込んできた。
「こんばんは。あの、お名前を教えていただけませんか?」
がっくりと肩を落とした。
なんのことはない、ただの悪戯電話のようだ。
「失礼します」
いきなり切るのもどうかと思ったので、その一言を機械越しに伝えて、通話を切ろうとした。
すると、慌てた様子で引き留められた。
「待ってください、切らないで!
あの、亜美さん・・・亜美さんではないですか?」
その言葉に、眉をひそめた。
聞き覚えのないこの声の持ち主が、どうして私の名前を知っているのだろう。
気味が悪いとも感じたけれど、なぜだか私の指はどうしてもボタンを押すために動こうとはしない。
唾をごくりと飲み込んで、私は答えた。
「・・・そうです。失礼ですが、どちら様でしょうか」
少し間を置いて、女性は名乗った。