夢みる蝶は遊飛する
次に受話器から聞こえた言葉に、私は耳を疑った。
「雅人さんの・・・意識がなくなったんです。もうたぶん、あと数日も、もたない・・・・」
途切れ途切れに絞り出されたその言葉の持つ意味が、理解できなかった。
あと数日?
この女は、何を言っているのだろう。
虚言癖でもあるのだろうか。
あと数日で、何だというのだ。
意識がなくなった?
あと数日ももたない?
それではまるで、もうすぐ父の命が消えるように聞こえる。
そんな冗談はやめろと言いたい。
嫌がらせをするなら、もっとましな嘘をついてほしい。
「話が掴めません」
淡々とした口調で、そう伝えた。
少しも興味を引かれなかったようなふりをしながら、痛いほどに携帯電話に耳を押し付け、次の言葉を待った。
躊躇っていることが電話越しにもわかるほどの重い沈黙の後、女は詳しく語りはじめた。