夢みる蝶は遊飛する
今の自分の顔は、鏡を見なくてもわかった。
きっと、醜く歪んでいるのだろう。
狂気をはらんだ瞳を鈍く光らせて。
「憎みたいなら私を憎めばいいわ」
ありきたりな言葉が聞こえてくる。
言われなくてもとっくにそうしている、とは言わなかった。
「でも、雅人さんはなにも悪くないの。彼に憎しみを抱くのはやめて」
この女が、一体なにを知っているというのだろう。
少し事情を知っているらしいけれど、それだけで訳知り顔で勝手なことを言わないでほしい。
どうして電話を切らなかったのか、それは自分でもわからない。
けれどこのときの私は、その選択をしなかったのだ。
「どうして私が、大切な家族を、憎まなければならないんです?」
“家族”という言葉を使ったのは、女への当てつけだ。
この女がいくら書類の上で父の伴侶だと記されていても、父と血が繋がっているのは私だ。
今、父のそばにいて家族だと呼べる存在は、この女だけだということは承知していても、それは紛れもない事実。