夢みる蝶は遊飛する
「お父さんに、会いに行くの。会いたいって言われたから・・・」
祖父とは別の意味で震える唇から、なんとか言葉を押し出した。
「お前の父親は、お前を、美波を捨てたんだろう! 許しも得ずに勝手に奪っておきながら。
それでも会いに行くのか。美波が死んだ理由を忘れたのか!」
唸るように絞り出された祖父の言葉が、胸に突き刺さった。
忘れるはずがない。
悲しみに彩られた深紅の記憶は、きっとこれからも私の胸を痛ませつづける。
流れた母の鮮血は、鎖となっていつまでも私の心を締めつけるのだ。
「お父さん、そんな言い方・・・・」
祖母が私を庇うように言ってくれたけれど、祖父の怒りは治まらない。
「お前も美波と同じか!? 結局この家を捨てて、そんな男のところへ行くのか?」
そうだ。
祖父から結婚の許しが得られなかった母は両親を捨てて、父と二人で生きる道を選んだのだ。
祖父には、その時の光景と現在が被って見えているのだろう。
「違うの。そうじゃない」
私は静かな瞳で、祖父を見つめた。