夢みる蝶は遊飛する

「さっき、お父さんの・・・知り合いの方から連絡があったの」


電話をかけてきたのがあの女だということは、伏せておいた方が良いだろう。

祖父母はあの女の存在を、知ってしまっているから。

たぶん私にとって私以上に許せない存在があるとしたらそれはあの女であるように、祖父母にとって私の父以上に憎い存在があるとするならば、きっとそれもあの女だ。


「お父さんが、病気だって」


しん、と静まりかえった部屋は、とても寒く感じられた。


「今会わなかったら、たぶんもう・・・・」


そこで私は目を伏せた。

この角度でこの表情をすると、私は驚くほど母に似ているのだということを知っている。


「お願い。行かせて」


今度はしっかりと祖父と目を合わせた。

見つめたその瞳が揺らいでいるのが、はっきりとわかる。



それに耐えきれなくなったのか、祖父は私から目を逸らして、なにも言わずに部屋を出ていった。

祖母が私の肩に優しく置いた手から、温かさがじんわりと染みこんできた。

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