夢みる蝶は遊飛する
今朝も私は祖父と一言も言葉を交わすことができなかった。
自分の部屋がある二階からキャリーバッグを引きずり下ろす私を、じっと見つめていた祖父の心中を察することができなかった。
この数ヶ月で少しずつ築き上げた祖父母との関係が、壊れてしまうかもしれないという危惧はあった。
けれど、それでも私は父に会いに行くことを選んだ。
滑らかなアスファルトの上を走り続けたバスは、父が入院している病院に、ついに辿り着いた。
携帯電話の電源を切り、白いその建物の内部へと足を進めた。
病室は、昨夜教えてもらっている。
エレベーターを見つけて、それに向かって歩み寄る。
一歩、一歩。
私は父に近づいている。
一歩、一歩。
父は死へと近づいている。