夢みる蝶は遊飛する
どれほど経っただろうか。
目を瞑って、深呼吸をした。
まぶたの裏で、父と母、それから小さな私が笑っているのが見えた。
その姿は、幸せそのものだった。
たしかに幸せだった時間があったのだ、私にも、両親にも。
私がもう、いくら望んでも取り戻すことのできない過去。
どうしてこんなに過去は美しく見えるのだろう。
どうして思い出はいつも、都合良くよみがえるのだろう。
どんなに願っても私はもう、あの頃の無垢で小さな少女には戻れないというのに。
苦しさに押し潰されそうになりながらも目を開き、前を見据えて白い引き戸をノックした。
この瞬間、私自身の崩壊までのカウントダウンが始まった。
もう後戻りは、できない。
戻ろうとも思わない。
「どうぞ」