夢みる蝶は遊飛する
そう聞こえたので、ゆっくりとドアを開けて中に入る。
引き戸は滑らかに、音も立てずに開いた。
私を見つめる瞳。
「亜美・・・さん?」
母よりも幾分か若く、柔らかそうな鎖骨までの髪。
目鼻立ちがはっきりしていて、明朗そうな印象を受けた。
「夏希さん、ですね」
嫌悪感が募ったけれど、仕方なしにその名を呼んだ。
彼女に歩み寄られると同時に、私は後ずさりしそうになった。
もう戻らないと、ほんの数十秒前に誓ったばかりなのに。
なけなしの気力を振り絞り、私は足に力を込めた。
「・・・・父は」
睨むように、鋭い瞳を目の前の彼女に向ける。
私はあえて、感情を隠さなかった。
いつものように当たり障りのない表情で穏便に済ませようとは思っていなかった。
この女の存在は、私にとって邪魔なだけだ。