夢みる蝶は遊飛する
私は今、この病室に父と二人きりである。
もちろん父の意識はなく、その瞳に私の姿が映ることはない。
彼女―長谷川夏希さん―はどんな想いで、前妻の娘である私を呼び寄せたのだろうか。
そして、それを望んだ父の真意もわからない。
ふらつきながら立ち上がり、ベッド脇の丸椅子に腰掛け、父の顔を見た。
今度は目をそらさずに、しっかりと。
二年ぶりに見た父は、まるで別人のようだった。
そのあまりの痛々しさに、呼吸を忘れてしまいそうだった。
げっそりとこけた頬。
窪んだ目の下には青黒い隈がくっきりと浮かんでいる。
髪は薬で抜け落ちたからだろうか、剃髪されている。
点滴の針が刺さった腕は骨と皮しかないように思えた。
かつてバスケットボールを易々と鷲掴んでいた手は、こんなに小さかっただろうか。
父が闘病している間、私は何も知らずに平和に暮らしていた。
温かさと安らぎに包まれて、ぬくぬくと惰眠を貪っていたようなものだ。
自分が許せない。
許せるはずがない。
奥歯をぎりぎりと噛み締め、爪が掌に食い込むほど強く握った。
しばらく父の顔を見つめた後、私は語りはじめた。
失った二年間を埋めるために。