夢みる蝶は遊飛する


「お父さん、変わったけど・・・やっぱり、お父さんのままだね」


土気色をした顔を見て言った。

強くて厳しかったかつての父の姿は、そこにはない。

けれど私には、そんな別人のような容貌でも、やはり父は父に見えた。


「夢だったら、いいのに・・・」


私は残酷な娘だろうか。

父親が必死に闘病してきた事実を、夢であればと思ってしまうのだから。



「あの後、いろいろ大変だったよ」


父を責めるつもりは毛頭ない。

だから具体的には言わない。


けれど、父があの時のことを後悔しているのなら。

心を痛めたまま、逝こうとしているのなら。


「でも・・・でもね、私、今幸せだよ」


そう、伝えたかった。

だから父が気に病むことなどなにもないのだと、言いたかった。



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