夢みる蝶は遊飛する
幸い、初めに入ったビジネスホテルで部屋が取れた。
ベッドが固く、手入れが行き届いている部屋だとは言い難かったけれど、そんなことはどうでもいい。
コートを狭いクローゼットに掛け、靴を脱いでベッドに上がり、スプリングの壊れかけたそこに座り込んだ。
動作が止まると、思った以上に身体は冷えていたらしく寒気が襲ってきた。
エアコンを稼働させてみたけれど、埃っぽいにおいのする冷風がそよいでくるだけで役には立たなかった。
リモコンを放り出して、身を小さくしてため息をついた。
ユニットバスに湯を張っている間に、少し遅い夕食を済ませた。
食欲はなかったけれど、朝も昼もほとんど食べていない。
さすがに不健康だろうと、ホテルを探している途中に立ち寄った店で買ったゼリー飲料を胃に流し込んだ。
三度の食事を大切にしていた母が、今の私の姿を見たら何と言うだろうと考えた。
苦しいほどの懐かしさがこみ上げてくる。
もう二度と母に叱られることもないのだ。
それがこんなに寂しいことだなんて、知らなかった。