夢みる蝶は遊飛する
眠れなくても夜は明ける。
翌日の朝、ベッドから這い出てカーテンを開けた。
空は晴れ渡っていたけれど、やはりどこか薄暗い気がする。
東京は、昼間も常に薄暗く、夜も常に薄明るい、そんな街だ。
住んでいた頃は、そんなふうに思うことはなかった。
離れてみてわかるのだ。
この小さな巨大都市の魅力も、威力も。
粘土細工のような光のない迷路の街で、私はいつまでも出口を見つけられないままでいる。
気だるい身体を引きずって、また病院へやって来た。
陽の光で白さを増したその建物は、私に威圧感を感じさせた。
音もなく滑る自動ドアが開いた瞬間、漂ってきた薬や消毒液の匂いで気分が悪くなってくる。
こんなところで、父はずっと病と闘っていたのだ。
いや、父はそれだけではなく、きっと抱えきれないほどの後悔とも闘っていたはずである。
そんな必要は、少しもなかったのに。
病室に行く前にトイレに入った私は、鏡に映る自分の姿に愕然とした。
自分こそ病気なのではないかというくらい、ひどい顔色だった。
目を背けて、いつもと何ら変わりのない姿だと言い聞かせて、そこを出た。