夢みる蝶は遊飛する

耳を塞いで、目を強く瞑った。

頭を振っても消えないその残像と残響が、だんだんと私に近づいてくる。


それは、発狂しそうなほどの恐怖だった。

封じこめたはずの悲哀と、絶望がひきずり出されてくる。

母は、もうこの世にはいないのだ。

父ももうすぐいなくなってしまう。

どうして私ではないのだろう。

私なら、この命を捨てるのを厭わないのに。

こんな世界で孤独を感じて生きていくくらいなら、私が死ねばよかったのに。

両親がつくりだした私という命は、両親がいなければ存在する理由も価値も失ってしまうというのに。


もう、これ以上なにも失いたくはなかった。

もう独りにはなりたくなかった。

ただ愛されたかっただけだったのに。

それすらももう、望めない。

運命と呼ぶには残酷すぎる瞬間は、すぐそこまで迫っていた。



< 246 / 681 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop