夢みる蝶は遊飛する
その瞬間、父の手が微かに、でも確かに私の手を握りしめた。
しっかりと、その温もりを感じた。
はっとして父の顔を見た。
相変わらず、その瞳は閉じられている。
そして。
父の手から、力が抜けた。
それは命の終焉を意味していた。
医師が看護師に指示を出す。
その看護師は私の手から父の手をそっと抜きとり、脈と呼吸を確かめた。
看護師が医師を見、軽く頷く。
腕時計を見てから医師は静かに時刻を告げた。
私はそれを、どこか遠い意識で聞いていた。
夏希さんの嗚咽も、目の前の青白い顔をした父も、何もかも現実だとは思えなかった。
彼女の涙が父の目じりに落ち、まるで父が泣いているように見えた。
それは私が初めて見る、父の涙だった。