夢みる蝶は遊飛する
「あ、俺ね、小早川弘晃っていうんだ。みんなヒロって呼ぶから、高橋さんもそう呼んでね、小早川って名字長いからさ。
そんでもってサッカー部のキャプテンやってまーす。只今マネージャー絶賛募集中!
高橋さんのことはなんて呼べばいい? やっぱ名字にさん付けってよそよそしいしさ。せっかく同じクラスになったんだから。あだ名で呼び合ったら親睦も深まるってやつ!
ただ俺ね、ネーミングセンスないんだよね。ほら、俺って頭の中まで筋肉~ってタイプだから。ってことで、とりあえず亜美ちゃんって呼びまーす。
それから俺はここにいる沙世と、ここの席の祐輝と幼馴染みってやつでー、もうこーんな頃からのお友達!」
と、到底人間ではありえない大きさを指で示しながらニコニコと話す彼、小早川くんに唖然とする私。
こんなに目立つ人物が同じ教室にいたのに、気づかなかった昨日の自分を不思議に思う。
幼馴染みだという沙世はもう慣れているのか、退屈そうに髪を梳いている。
今日は巻いていないのでストレートだ。
そんな沙世を見て、小早川くんは不服そうに唇を尖らす。
「ちょっと沙世ちゃーん、何か反応してって!」
「うざい」
髪から目を離さずに、小早川くんの言葉をばっさりと切り捨て、泣き真似をする彼に見向きもしない。
短い制服のスカートから伸びる脚を組みかえる沙世は、どこか退廃的な雰囲気をまとっている。
「亜美ちゃんは優しいから、俺の話聞いてくれるよねっ?」
美しい顔に満面の笑みと期待を浮かべた彼に、どちらともとれるような控えめな微笑を返した。