夢みる蝶は遊飛する
何の障害もなく、通夜は終わった。
夏希さんに、彼女の家に滞在するように言われたけれど、私はそれを断って夜遅くにホテルへと帰ってきた。
制服を入れた紙袋を放り出し、冷たいベッドに寝転がる。
これは夢なのではないかと、現実を受け入れられていない私は何度も思った。
長い夢をみているだけで本当は、私はまだバスケットボールを追いかけていて、私に熱い声援を送る父の隣で、母が微笑んでいるのではないかと。
そんなことはありえないとわかっているからこそ、考えてしまうのだ。
眠れない。
食べられない。
あまりの喪失感に、精神が荒廃しているような気がした。
母が亡くなった時も同じ症状に悩まされたけれど、これほど酷くはなかった。
父の死の方が、ショックが大きいということではない。
ただ、父の死が母の死を鮮明に蘇らせているのだ。
ふたつの死が私の中で渦巻き、何度も繰り返されている。
狂いそうなほどの苦しさから、どうやっても逃れることはできない。