夢みる蝶は遊飛する
火葬場で、父が焼かれる直前。
やっと意識をこちら側に戻すことができた。
気をつけていないと、どこか遠くに飛んで行ってしまいそうなのを、自分でも止められない。
最後にもう一度、父の顔を見た。
作りごとのように微笑んだまま逝くということは叶わず、口は真一文字に引き結ばれている。
頬に触れてみても、氷のように冷たくてかたい。
父の魂が放つ温かさは、もうその身体に生を吹きこむことはできないのだ。
名残惜しい気持ちを振り払って手を離した。
棺には、父が現役時代に身につけていたバスケのユニフォームなどを入れた。
天国で父がまた大好きなバスケができるように。
栄光の数々を誇らしげに話す父と、それを嬉しそうに聞く母。
そんな光景が、目の前にぼんやりと浮かんだ。
「お父さん・・・幸せになってね」
誰にも聞こえないように、父の耳元でそっと呟いた。