夢みる蝶は遊飛する
父の身体が焼かれてしまうというのは、恐ろしくて耐えられそうにない。
けれど病気に食い荒らされたぼろぼろの身体から、父の魂が解き放たれるのだと考えると、すこし楽になった。
扉が閉められるのを見届け、促されるままに遺族待合室へ向かった。
私、夏希さん、叔父と祖母、それから見たこともない親族が何人か。
夏希さんがここまで来ることに祖母が反対し、揉めていたのを知っていた。
それを叔父がなんとかなだめ、彼女もこの場に立っている。
ぴんと張りつめた空気に耐えられなくて、夏希さんに声をかけてから外に出た。
火葬場の駐車場のすみに立ち、建物を見上げる。
もちろん煙突などないし煙も出ていない。
けれど、深い夜空色の父の魂がゆらめきながら天に昇ってゆく美しい様子を、私はたしかに見た。
快晴の空を吹き抜ける風は、ひどく冷たく乾いている。
水で薄めたように淡い色の空。
その、どこまでも澄んだ縹(はなだ)色も、私の淀んだ心を透明にはしてくれない。
今冬最大の寒波は私の身体の熱を急速に奪い、それが心は麻痺していても身体だけは正常であることの証明だった。