夢みる蝶は遊飛する
どれくらい経っただろうか。
深い霧の中に佇んでいるような感覚の中に身を置いていた私は、こちらに近づいてくる足音に気がついた。
誰かが走り寄って来るその方向を振り向こうとした瞬間、強く腕を掴まれた。
「すまない」
驚いて小さく声を上げながら身を竦めると、その人は焦ったように私に謝った。
しかし、手は離してくれない。
私が振り返った先にいたのは叔父だった。
「あの・・・」
手を離してください、そう続けようと思ったのにそれは遮られてしまった。
「ちょっと急いでいるんだ。すぐに来てほしい」
そう言いながら、半ば強引に私を建物の中へと連れ戻した。
その顔も、背格好も声も、すべてが父を思い出させる。
大きな手に掴まれた私の腕は、身に付けた制服越しでもその体温を感じ取ったのか、じんわりと温かくなっていく気がする。
あの頃と同じ元気な父の姿を見ることができたようで、少しだけ顔の筋肉が緩むのを感じた。