夢みる蝶は遊飛する
しかしそれもほんの一瞬のことだった。
彼がドアを開けた先の待合室では、夏希さんと祖母が睨み合っていた。
その近くで女性がひとり、おろおろしながらこちらに救いを求める瞳を向けている他は皆、我関せずといった態度をとっている。
その女性は、今も私の腕を掴んで離さない叔父の妻だと紹介された人物で、つまり私の叔母である。
「母さん、やめろよ」
呆れた声色の叔父のその言葉に祖母は厳しい顔つきでこちらを見たけれど、私の姿を認めると、途端に表情を柔らかくした。
「ああ、亜美さんだったかしら。こっちに来てくれる?」
「ちょっと・・・!」
何か言いかけた夏希さんを冷たい一瞥で黙らせた祖母は、優しげな笑顔をこちらに向けてきた。
拒否することなど出来るはずもない。
先ほどまでとはまるで違うその雰囲気が、なんだか怖かった。
そちらに歩き出そうとした私だが、叔父がいまだに手を離してくれない。
困惑してその顔を見つめると、そっと耳打ちをされた。
「――――、――――――」
聞こえた言葉の意味が分からなかった。
叔父は首を傾げる私の腕を解放し、困ったように少し微笑みながら私の背を押してくれた。