夢みる蝶は遊飛する

自分の表情を操ることに長けている私は、何種類もの笑顔を使い分けることができる。

そして自分の気持ちとは正反対の表情を作ることもできる。


嬉しくもないのに、楽しくもないのに、まるで心から幸せを感じているような笑顔を作ったり。

心を切り刻まれるような辛い言葉を投げかけられても、まるで気にしていないかのような平然とした顔をしつづけたり。




私は弱いから。

そうやって本心を隠していないと、もっと、もっと傷ついてしまうから。


きっとこの表情を操るということも、私の周りを固める偽りという名の鎧に含まれるのだろう。

いつからこんなに、悲しいことが平然とできるようになったのだろう。

いつから私は、素直に感情を表に出せなくなったのだろう。




けれど。

“秘密”を守るためなら。

私はどんな嘘でも吐いてみせる。



私の過去は、誰にも知られたくない。

露見すればきっと、またなにも知らない人間が、その過去を下卑たものに仕立て上げようとするから。

自分たちの基準でしか物事を見ることのできない人間には、私の過去を受け入れることはできないから。




未来なんていらない。

過去しか必要がない。


どうなるかわからない先のことよりも、確かに幸せだった日々の思い出を大切にしたいから。





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