夢みる蝶は遊飛する
「あなたのお父さんの弟、嘉人と菜穂さんの。菜穂さんは少し身体が弱くてね、子どもを産めないのよ。今どき直系の後継ぎがいないからってどうかなるわけじゃないけど。
でもあなたなら、長谷川の長男の娘だし」
長谷川が、と言われても、どういうことなのかさっぱりわからない。
そんなに特別な家柄なのだろうか。
私はそういった社交界でのことに疎いし、そういったこととは無縁の小さな世界の中で生きていたのだ。
かつて通っていた皇ヶ丘学園を思い出す。
あの学校に通っている生徒のほとんどが、大きな企業の経営者一族や旧家の人間であったはずだ。
父が幼稚舎から大学まで皇ヶ丘学園に通っていたことは知っている。
それならばたしかに、父の実家である長谷川家が名のある家柄である可能性は十分にある。
そこまで考えて思った。
今は父を悼む時間なのに、どうしてこんなわけのわからない話に付き合わされなければならないのだろう。
養子がどうとか、その意味もよく理解できていない。
どういうことなのだろう。
長谷川家とは何なのだろう。