夢みる蝶は遊飛する
言葉につまる私に、叔父は手を振ってまた笑う。
「いや、いいんだ、すまない。それは後で話すとして、まずは・・・・きみは、長谷川家のことをどれだけ知っている?」
急に真面目な顔つきになって問う、つかみどころのない叔父に戸惑う。
父とよく似た顔で、父があまり見せなかった笑顔を向けられると、私の心臓は途端に生を主張するように激しく動きはじめるのだ。
ざわざわと胸が騒ぎはじめ、落ち着かなくなってしまう。
瞳を合わせることができなくて、隆起した喉仏のあたりに視線を彷徨わせる。
「なにも、知りません。父に兄弟がいることも、ほんの数日前に知ったばかりなんです」
私の頼りなくか弱い声は、すぐに空気へ溶け込みその場に沈黙をもたらす。
こんな弱々しい話し方をしたことはなかったのに、どうしても私は父に似たこの男性を直視することができないし、はっきりと物を言うことすらできないでいた。
「そうか・・・」
叔父がため息をつき、なにか考えていることがわかった。
そして。
「最後まで聞いてくれるかな、兄さんのすべてを」
頷くしか、できなかった。
そうして叔父は、語りはじめた。
父が私には決して話さなかった、その過去を。