夢みる蝶は遊飛する

高等部に進んでからも、相変わらず父の日常はバスケに彩られていた。

その頃から皇ヶ丘学園は、中等部も高等部も、バスケ界では一目置かれた存在であった。

父は寮に面会に来た両親をことごとく拒み続けたけれど、ただ一人、叔父だけは歓迎してくれたという。


そしてこっそり、弱音を漏らした。

自分の身体に限界が来ていることを。

どこかでバスケに見切りをつけなければいけない状態になっていると。

父がバスケを諦めた理由、それは私と同じ。

故障だった。


当時の父は高等部二年生、今の私と同じ年。

叔父にだけ知らされた、バスケ選手としてのタイムリミット。



「わたしは兄さんの味方だったから。秘密は絶対に漏らさないし、無駄に騒ぎ立てたりもしないことが分かっていたから、わたしにだけは教えてくれたんだろう」


父は高等部三年生になり、最後の大会で輝かしい成績を修めた。

そして完全燃焼したところで、あっさりと実家に戻ってきた。

祖父母はやっと目が覚めたかと言って喜び、その原因を深く追求しようとは思わなかった。

変に関わってまた道を踏み外しては困るとでもいうように、家の中で“バスケ”という言葉は禁句となった。