夢みる蝶は遊飛する
「でも、さっきの言葉は事実です。嘘を言ったつもりはありません」
目の前に座る叔父に、私は父の幻影を見ている。
叔父が、綺麗に撫でつけられた髪を手でかき混ぜるように崩した。
そうしてため息を吐いたその姿は、やはり父と似ている。
似ているけれど、まったく違う人間なのだ。
「ひとつ、訊いてもいいかな」
目だけでそれに頷いた。
「きみは先ほど、養子にはならないとはっきり言ったね。じゃあ訊くが、きみは自分の選択が正しいと、いつも思っているのかい?」
言葉だけとってみれば責められているようでも、実際その声色は単純に疑問に満ちているだけだった。
無意識に嘲笑を浮かべ、口を開く。
「私は常に、自分が正しいと思った道を選択しています。でも本当に正しい選択がいつもできていたなら、私は今こんな状況であなたの前にはいません」
いつだって、自分の信じた道を進んできた。
それが間違っていたとしても、引き返すことなどできなかった。
まわりが茨だらけだったうちに、素直に分岐点まで戻ればよかったのだろうか。
もう私のそばにはなにも無いし、どこからどう歩いてきて、自分がどこへ行きたいのかも、どこから光が差しているのかもわからない。
自分の選択や直感に、信憑性などない。
ただ、自分を信じたかっただけだった。