夢みる蝶は遊飛する
「それでも、きみは自分の意思を貫き通すんだね」
さっと笑みを消して、頷いた。
叔父は少しだけ寂しげな表情をしていた。
「悪いけど、きみのことについては少し調べさせてもらった。きみが生まれてから、美波さんが亡くなるまでのことを。きみが辛い過去を背負っているのも知っている。きみが・・・幼い頃、兄さんや美波さんと離れて暮らしていたことも」
覚悟をしていないのにその事実に触れられたことで、私はひどく動揺していた。
私にとってそれは、禁忌だったのだ。
自分ですらはっきりと思い出したくない、思い出せないほどの、心にできたもっとも大きな亀裂なのだ。
私が過去に数年間、両親と離れて暮らしていたことは。
「兄さんがきみや美波さんを酷く傷つけたことも知っている。きっとそれが今のきみを作る原因になったであろうことは簡単にわかる。
・・・・けれど」
そこで叔父は言葉を切った。
叔父が、私を見つめる。
その瞳の奥から父が、私を見つめている。
「そうしなければならない理由があったということは、わかってほしい。兄さんが、美波さんが、そうしなければならなかった理由があったことは。
きみにならわかるはずだよ。そばにいるだけが、愛情ではないということが。
きみは、どこまで知っていて、なにを知らないんだ?」
父が、私に問いかける。
叔父の姿を借りて。