夢みる蝶は遊飛する
だから仕舞い込んだのだ、白い封筒を。
私宛ての、母の遺書を。
「まだ、読んでいないんです、母の遺書を。怖くて・・・。私に対する恨みで占められていたらと思うと・・・」
叔父は眉を若干寄せて、少し難しい顔をしていた。
そして私がそれを見ていると気づくと、表情を和らげた。
「わたしもその中身は知らないが、きっと大丈夫。きみは誰からも恨まれていない。
きみは、みんなに愛されているから」
父が私に語りかけている、そう思った。
見たこともないくらい、優しげに微笑んでいる。
父がそう言うのなら、間違いはない。
「最後にひとつだけ、言っておく。
たとえすべての真実を知ったとしても、決して自分を責めるんじゃない。きみは何も悪くないんだ。きみも、兄さんも、美波さんも、それから・・・・夏希さんも、悪くないんだ。
なにかを責めたいのなら、長谷川家を責めればいい、恨めばいい、憎めばいい。それがそもそもの元凶だから」
叔父はそれ以上、何も言わなかった。