夢みる蝶は遊飛する

叔父は、私が滞在しているホテルの最寄り駅まで送ってくれた。

さすがに、あんな貧相なホテルに宿泊しているとは言えないし、高級車を横付けしてもらうことなどできない。

去り際に、住所と電話番号が書かれたメモ用紙を手渡された。


「もし、きみが過去を過去として受け入れられたら。兄さんを苦しめた長谷川家を許してくれるなら。いつか、遊びにおいで。母はあの通りきみを気に入っているし、兄さんの娘なら、わたしと菜穂にとっても娘同然だから」


助手席側の窓を閉めて、叔父は去っていった。




父の亡くなった日と同じ、真っ赤な夕陽が沈んでいく。

眩しくて、そっと下ろしたまぶたの裏も、赤く色づいていた。

それはかつて私が身に纏っていた深紅のユニフォームとも、母の流した鮮血とも違う色だった。

長く伸びた影が、過去を名残惜しむ私の心を表しているようだった。




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